私のフレイル
井口 昭久
愛知淑徳大学健康医療科学部教授
夫と2人暮らしの83歳の恒子さんは日常生活に支障はないが,最近体調が悪いという.
「どこが,どのように悪いのか?」と言われてもはっきりと,「ここが,このように悪い」とは言えないが,とにかく調子が悪いということだった.
いろいろな医者へかかったが,悪いところを発見してくれるお医者さんはいなかったという.そこで最近新聞で見た,「フレイル」が自分にソックリだとわかって私の外来へ来たといった.
「私はフレイルですが,私の病気は何なんでしょうか?」と尋ねるところをみると「フレイルは病気ではない」ことだけは理解しているようだった.「食欲というものがないんです」と,「というもの」を強調して言った.そして「日に日に悪くなる」と言う.
「フレイルっぽい先生ならわかってくれると思って」とは言わなかったが,私は自分自身がフレイルかもしれないと思っている.私の握力は基準以下だろうが恐ろしくて測定していないし,歩行速度は人より劣っている.軽い運動・体操はもとより定期的な運動・スポーツもしていない.それに訳もなく疲れたような感じがすることが多い.
私は我が身を顧みて彼女に同情した.「この頃筋力が減って重いものを持てないし,歩くのがつらい」というので「どれだけ歩けるの?」と尋ねると「3,000歩がやっとなんです」と答えた.この辺りから彼女のいう「フレイル」は怪しくなってきた.
握力を計ってもらうと右が24kgで左が20kgであった.
「体重はどれだけ減ったの?」,「月に200gも減ったんです」,「外出はするの?」,「カーブス(女性だけの30分フィットネス)へ行くのが精いっぱい」,「何回行くの?」,「週3回,月に12回」,「なんか楽しみはないの?」,「麻雀が楽しみです.月に2回,朝から晩まで,一日中やるんです.途中でおにぎりなんか食べたりするんです.もう2年続いているんです」
私は「どこがフレイルだ?」と思って聞いていたが,「誰も聞いてくれる人がいなくてね.先生だけよ,こんな話聞いてくれるの」と言った.