差出人不明の住所変更のお知らせ
井口 昭久
愛知淑徳大学健康医療科学部教授
「住所が変わったので新住所をお知らせします.今後ご用の節はこちらへどうぞ」という葉書が届いた.新住所が書いてあるだけで旧住所も名前も書いてなかった.
電話番号は書いてないし,郵便番号は新住所のものである.
パソコン印刷なので筆跡の特徴はない.定型文になっているので個人の特徴をうかがい知る手掛かりはない.
住所が変わった人が存在する,それは確かなようだ.しかしそれは誰だ?
「お手数ながらお手持ちの住所録のご変更をお願い頂ければ幸いです」と書いてあるので,私から手紙を出したことがある人なのだろう.
誰の住所をこの新しい住所に変えればいいのか?
間違った人の住所を変更すると住所不明で郵便局から返信される郵便が2人になる.どなたかは存ぜぬがその人は自分の名前を載せ忘れたことを気づいていないに違いない.
この不注意を正す方法は1つだけある.この手紙の差し出し人が,私が今年年賀状を出した人の誰かであって,来年の年賀状がその人から来れば判明する可能性がある.
しかしこの住所変更の葉書が私の出した年賀状への返礼のつもりであった場合は,将来にわたって誰だか不明になる.
困ったことにこの人は私に新住所を知らせたと思っていることだろう.そしてその人は私から何の連絡がないことを私が原因であると思うに違いない.今後私からは連絡がいかないのは私に責任があると思って一生過ごすことだろう.私の知らぬところで私はあらぬ誤解を受けることになる.
伝えたと思っていたのに伝わっていなかった.それは自分に原因があるのに相手のせいだと思い込んでいる.
そしてそこから生まれた誤解を永遠に解くことができぬ.
私は不安になった.私も長い人生で自分では気づいていない数々の過ちを犯してきたに違いない.
この手紙のように自分では気づかずに誰かを当惑させていたかもしれない.