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老年科医のひとりごと 第6回

老人は寝かせるな

井口 昭久
愛知淑徳大学健康医療科学部教授

78歳男性の妻
 夫はまだ現役で働いている.「お弁当持って毎日出かけるけどね,以前は会社で何かあったらどうしようって心配していた.でも最近は会社にいてくれたら何かあったら誰かが傍にいてくれるから安心って思うようになったの」
 いよいよ超高齢社会がやってきた.日本人の妻は夫の介護が心配である.
68歳女性
 「この頃歩けていないの.朝歩くために道に出ると,大勢の人が歩いているの.4時でも,もうジョギングしている人がいる.6時頃になると人が増え始めて7時になると一杯.すれ違うたびに挨拶しなきゃならないの.面倒だからだんだん早くなって,朝3時になっちゃった.でも3時はまだ暗いもんね.怖くて歩けないの」
 運動は介護予防に一番効果があることを皆が知るようになってきた.
83歳男性
 「娘から電話がかかってくるんだわ.今日は歩くの少なかったわねとか,寝てばかりいちゃだめよって,全部わかっちゃうんだわ.この腕時計に仕掛けられていてね,そのデータが娘のパソコンにつながっているんだわ」
 %e3%82%a4%e3%83%a9%e3%82%b9%e3%83%88%ef%bc%88w300どうやら娘にプレゼントされた腕時計タイプのスマホに万歩計が仕掛けられているらしい.いつも娘に監視されていると言った.それなら腕から外しておけばよさそうなものだが「余計に怒られる」そうだ.
 娘はキャリアウーマンである.親の介護が必要になるのを恐れている.娘にとっては親の介護ほど怖いものはない.そして「老人は寝かせるな」が寝たきり予防の第一であることを知っている.だからそうやっていつも父親を監視している.父親はいつも動いていなければならない.

 この頃では老後をのんびり過ごすことは難しい.老人は尻から火がついたように用事もないのに動き回らなければならない運命だ.

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