へんな先生
井口 昭久
愛知淑徳大学健康医療科学部教授
私は看護師です.これは「へんな先生」のお話です.
外来で,患者と先生がお話をしている間に看護師が加わり,そのうちに患者と看護師だけの会話になってしまい,先生は黙って電子カルテにその内容を書いています.
そして看護師の言うことに驚いて「本当?」と言って看護師の顔を見つめます.看護師は「そうですよ」と言って,丁寧に患者に教えたことを先生にも教えています.
先生は感心して聞いて「勉強になるね」って言います.
患者が長く診察室に留まるのは,先生の患者が少なくて,そのことを患者が知っているからであります.
「先生の住所を教えてください」という患者がいます.先生は「教えません」,「何故ですか?」,「教えるとあなたが私の家にお歳暮を贈ってくるからです」と答えます.
患者が診察室へお菓子を持って来ることがあります.患者が診察室から出て行くと,先生は看護師の前で神妙な顔をして言います.「長い間お世話になりました.これはつまらぬ物ですが,気持ちだけです」と.看護師は「それはさっき患者さんにもらったやつじゃん?」と言います.
先生は雑誌や新聞にエッセイを書いています.そのエッセイをまとめて本にしました.ちっとも売れないので先生は患者たちに配っています.
患者たちは先生に感想を言わなければいけないと思うのでちゃんと読んで来ます.さすがに「つまらなかった」と先生の前で言う患者はいませんが,「読んで来るのを忘れた」という患者がいます.
この頃そういう患者が続いたので先生は「どうだった?」と本の感想を聞くのを止めました.
先生のカラダのことを聞く患者がいます.
先生は「ボクは大丈夫です」と言います.患者はそれを聞くとホッとして「お大事にしてください」と言って診察室を出て行きます.